ヨウ素ナノチューブ反応
多くの方にとってヨウ素デンプン反応はもっとも印象的な化学実験の一つだと思います。デンプンを含む水溶液に茶色のヨウ素液を落とすと青紫色にデンプンが染まるというものです。メカニズムはなかなかに複雑でアミロースのらせん構造が生み出す空間にポリヨウ化物イオンが取り込まれた電荷移動錯体を生成することで発色しています。さて、表題のヨウ素ナノチューブ反応というのは何でしょう?WEBで調べても何も出てこないと思います。なぜなら私たちの研究室で勝手に名付けたものですから。茶色のヨウ素液にカーボンナノチューブを入れると写真のように液が透明になります。写真の黒い海苔のようなものがペーパー状のナノチューブです。なぜ透明になるのでしょうか?
透明になる理由は次のように考えられます。ヨウ素液が茶色になっている理由はヨウ素液中に含まれるポリヨウ化物イオンによるものです。ナノチューブを加えるとチューブの中空部分にヨウ素分子I2を取り込みます。これによってヨウ素液が透明になっています。ヨウ素分子が取り込まれているという証拠は分光実験で確かめることができます。この取り込んだヨウ素分子とナノチューブの間には電荷移動反応が起こるのですが、これが低温で面白い相転移を引き起こします。このあたりのことをまとめたものを論文にまとめJPC誌に投稿したところ無事アクセプトされました。査読者にXANESスペクトルを見せないと通さないと脅されたのですが、奇跡的にXANESスペクトルは測定済みで助かりました。(S.K.)
(Sep. 2016.)