ロケット鉛筆型ナノチューブ
炭素は実に面白い元素でさまざまな「固体炭素」を生み出します。「固体炭素」にはダイヤモンド、グラファイト、フラーレン、ナノチューブ、アモルファスカーボン、カーボンファイバー、ダイヤモンドライクカーボン....と実にいろいろあります。それぞれ炭素原子のつながりが異なるわけですが、ややこしいことに1つの名前で呼ばれているものでも必ずしも同じ構造ではありません。特に問題なのがナノチューブです。昨今のナノチューブブームの影響もあってか直径の小さな繊維状のカーボン材料は何でもナノチューブと呼んでしまっています。グラフェンシート1層を丸めた単層カーボンナノチューブは疑いようのないナノチューブです。この単層のナノチューブが入れ子状(ロシアンドールのように)になったものも疑いようのない多層カーボンナノチューブです(結晶性の良い多層カーボンナノチューブはめったにないと思いますが)。ところが壁構造がアモルファスだろうが、直径が数百ナノメートル(これはサブミクロン!)だろうが、中空がなかろうが、長さが多少短かろうがファイバー状になっていればナノチューブと名づける傾向があります。これには当然批判もあり、structureとtextureをきちんと定義し、きちんとした言葉の使い分けをしようという提案がCarbon誌で議論されたりもしています。
このような批判を知りながら、このタイトルはないだろうと自分でも思います。しかしながら、新しいものを見つけるとやっぱり人目を引くような名前をつけたくなるものなのだと、今回写真のようなものを合成して初めて実感いたしました。これは単層カーボンナノチューブが変態してできたものです。高分解能TEMから壁構造はアモルファスであることがわかります。チューブ径は、おおよそ30-40nmでだいたいそろっています。写真中に赤色で描いたようにどのチューブにも節のような構造がありロケット鉛筆のようにつながっています。
TEMだと局所的な構造ではないかと疑われるかも知れませんが、どこをみても同じ構造でした。非常に低い温度で、かつ結晶性のよいレーザー蒸発法で作成された単層カーボンナノチューブがこのような構造のものに変態したことに大変驚いています。
何か面白い物性がでればなあ、などとつい程度の低さを露呈してしまいますが、まずはやはりどうしてこのような構造に成長したのかというメカニズム解明をやらないといけませんね。