ナノスペースカーボンの科学と工学、極限環境の電気化学

名古屋工業大学 川崎・石井研究室

「最近の研究から」Vol. 4

超高圧処理したナノチューブは硬くなる?

実は、C60分子はものすごく硬い。その体積弾性率は800 GPa 以上と計算され、なんとダイヤモンドの約2倍である。ナノチューブも軸方向の力にはめっぽう強い。この方向のヤング率は直径によって異なるが、おおよそテラパスカルオーダーである。これは、両者がともにsp2結合で構築されていることによる。ダイヤモンドのsp3結合より、ずっと硬い結合なのである。

しかし、残念なことに、バルク試料はいずれも、この硬い分子をファンデルワールスのゆるゆるの力で組み上げたものなので、ものすごく柔らかい。それでは、分子間に共有結合を導入すればいいのでは、と考える。これは実は、C60については多くの人(ロシアに偏っている気がするが)が行った。中には、ウルトラハード相といって、ダイヤモンドとスクラッチテストをしたら、ダイヤの方に傷がついた(すなわちダイヤより硬い!)との報告まである。(私自身はこれには、やや懐疑的であるが。)

ナノチューブではどうなるか。さっそく試してみました。(すでにロシアの人が室温で高圧処理するだけで、ものすごく硬くなると報告しているが、すこし怪しい。)図のように、高温高圧処理すると確かに硬くなります!

よっしゃー!と思ったのもつかの間。ダイヤモンドや高温高圧処理した件のC60と比較してみる。硬度にしておよそ一桁、残念ながら柔らかい。これは、ナノチューブは異方的でチューブ軸に垂直な力に対しては弾性的に振舞うことが原因だと思われます。

それにしても、この研究を始めて、硬度なるものが、とても評価しにくいものであることがよくわかりました。硬いっていうのを数値化すること、そもそも硬いというのはどういうことか、何と難しいことか。 (Physica B, 388, (2006), 59-62.)