ナノスペースカーボンの科学と工学、極限環境の電気化学

名古屋工業大学 川崎・石井研究室

「最近の研究から」Vol. 44

金色の黒鉛

鉛筆の芯に利用される黒鉛は当たり前(?)ですが黒いです。バンドギャップがゼロのグラフェンが積層して黒鉛は構築されています。3次元に積層することでグラフェンとは少し電子構造が変わって伝導帯にも少し電子はいますがゼロギャップ半導体に近い構造です。ですので可視光をよく吸収し黒い色になります。ところが、どうでしょう右の写真は金色をしていますね。これは黒鉛の層間にリチウムイオンを入れたものです。先ほど鉛筆の芯に黒鉛を使うと書いたのですが、黒鉛はさまざまなところで利用されています。携帯電話のバッテリーはリチウムイオン電池ですが、この電池の負極に黒鉛が使用されています。リチウムイオン電池を充電した状態は黒鉛の層間にリチウムイオンが詰め込まれています。普段はもちろんこのような状態を目にすることはありませんが、こんなにきれいな金色をしているのです。

このリチウムを貯めこんだ黒鉛は空気中では不安定なので、アルゴンガス雰囲気のグローブボックスで取り扱います。写真ではよくわかりませんが、グローブボックスのガラス越しに写真撮影しています。

さて、黒鉛が黒い理由は話しましたが、金が金色なのはなぜでしょうか。金属はプラズマ振動数に相当するエネルギーよりも低エネルギーの光を良く反射すると初等物理で習います。金の場合は図のように2.5eV以下くらいの光を良く反射します。赤~黄緑の光を良く反射するので金色に光ります。さて、リチウムイオンを貯めこんだ黒鉛はどうでしょうか。LiC6というのが飽和組成なのですがその反射スペクトルは金の反射スペクトルにきわめてよく似ていることがわかると思います。黒鉛には伝導帯に電子がほとんどないと書きましたがリチウムを挿入するとリチウムから電荷移動がおこり金属的な電子構造に変わります。これが金色になる理由です。(S.K.)

(May 2016.)