ナノスペースカーボンの科学と工学、極限環境の電気化学

名古屋工業大学 川崎・石井研究室

「最近の研究から」Vol. 42

冷やしナノチューブ、はじめました。

8月も後半となりましたが、名古屋では連日猛暑が続いています。例年以上に暑い今年の夏、私たちの研究室内で最もホットな話題は、ひんやり冷えたワラビもち?、スイカ?、かき氷?...

いいえ、「冷やしナノチューブ」です!

今年度、本学の大型設備基盤センターに「顕微分光用の加熱・冷却ステージ(ジャパンハイテック、10035L)」が導入されました。この装置を利用することで、-190 ℃ ~ 600 ℃までの温度で、試料の温度を精密に制御しながらラマン測定や赤外分光測定ができます。温度の安定性は極めて良好で、ガスフロー下での測定も可能な優れものです!以下の写真は温度可変ラマンの測定の様子です。

私たちは、この装置を使ってヨウ素ドープカーボンナノチューブの分析を進めています。Vol. 37で紹介したように、カーボンナノチューブのチューブ内にヨウ素分子を内包させることで、ナノチューブの導電性を1桁以上向上させることができます。

ヨウ素ドープカーボンナノチューブで注目したい性質は「分散性」。カーボンナノチューブは水中での分散が困難な物質ですが、ヨウ素ドープを行うことで水への分散性が改善します。面白いことに、温度が低いほどヨウ素ドープカーボンナノチューブの分散性が向上することを発見しました[1]。

ふつうの物質は温度を下げるほど溶解性・分散性が減少するはず...通常の物質とは間逆の性質です。導電性が向上し、分散性も良好。透明導電膜などへの応用が期待できそうです。

なぜ温度を下げると分散性が向上するのでしょうか?
現在、私たちは上記の温度可変ステージを用いて解析を進めています。

温度可変ラマン実験で得られた最近のデータを以下に示します。1000 cm-1以下に見られるピーク群はカーボンナノチューブ内に内包されたヨウ素分子の振動モード、1600 cm-1付近のピークはカーボンナノチューブの振動モード(Gバンド)に帰属できます。温度を変えるとヨウ素由来のピークとナノチューブ由来のピーク比が変化することや、Gバンドの位置がシフトすることが明らかになりました。

温度によってカーボンナノチューブ内のヨウ素分子の構造が変化し、ヨウ素分子とカーボンナノチューブ間の電荷移動度が変化しているようです。詳細は、秋の学会で報告する予定です。

[1] H. Song et al. Phys. Chme. Chem. Phys. 15, 5767 (2013).

(Y. Ishii, Aug. 2015.)