ナノスペースカーボンの科学と工学、極限環境の電気化学

名古屋工業大学 川崎・石井研究室

「最近の研究から」Vol. 19

ダイヤモンドの回折線

11/28-30 つくば・高エネ研でダイヤモンドアンビルセル(DAC)を使った高圧実験を行いました。写真はピーポッドの高圧下の状態をイメージングプレートで取ったものです。赤色の×印がダイレクトビームの位置です。この点を中心に同心円のデバイシェラーリングが観測されるはずです。ところが実際に撮影したものにはなにやらあらぬところに中心をもつリングが見えています。

私は実験を学生に任せて、途中会議に抜けていたのですが、この正体不明のリングが現れて学生は驚いて電話をかけてきました。会議中にも関わらず、サイレントにしていなかったので、私はかなり動揺し、学生が言っていることも理解できず、何か適当なことを言ってきりました。困った学生はいろいろ試行錯誤を重ねたようですが、何かの拍子にまったくこのお化けは観測されなくなったようです。

結局、その後大きな問題にもならずビームタイムを終え研究室にもどりました。戻ってすぐに、学生たちがDACの教科書にこのことが記載されていると教えてくれました。「ダイヤモンドアンビルを用いた高圧実験技術」によるとこの現象は 「試料の回折線に加え、あらぬところに原点をもつもう一種類の回折パターンが重なって 記録されることがある。余計なパターンの中心にあるのはダイアモンドの311反射で、 スリット形状や波長によっては隠れてしまう場合がある。アンビル用ダイヤモンドは、 普通、{100}面がキュレット加圧面となるようにカットされている。この{100}面 にほぼ垂直にX線を入射すると{311}面が、偶然、ブラッグ条件を満たしてしまい 強い反射点を生じることがある。この回折が試料上流側のダイヤモンドで起きると、 第2の入射X線となってガスケットにあたり、そのデバイリングが記録されてしまうのである。  ダイヤの回折を避けるにはスポットの方向にDACをわずかに傾ければよい。短い波長 を使った放射光実験では、ダイヤモンドからの複数の反射が恒常的に生じるので全てを 避けるのは難しい。これらの反射は試料からの回折線に比べて極めて強く、IPにダメージ を与えることがあるので注意が必要である。」

DACのダイヤモンドアンビルがモノクロメータになったということのようです。恐るべし、放射光。